2021.05.19

プラズマ活性化乳酸リンゲル液が悪性中皮腫細胞を特異的に殺傷することを発見

名古屋大学大学院医学系研究科・生体反応病理学の蒋 麗(しょう れい)研究員、豊國 伸哉(とよくに しんや)教授、名古屋大学低温プラズマ科学研究センターの堀 勝(ほり まさる)教授、田中宏昌(たなか ひろまさ)教授、中村香江(なかむら かえ)特任講師ら、からなる研究グループは、プラズマ活性化乳酸リンゲル液が悪性中皮腫細胞を特異的に殺傷することを発見しました。

悪性中皮腫はアスベスト曝露に起因するがんですが、体腔に発生するため早期に発見できても治療が難しいがんです。名古屋大学は、これまで長年にわたり半導体製造にも必須であるプラズマ研究を推進してきましたが、1990 年代後半に体温に近い低温のプラズマの作成に成功し、医工連携研究を熟成してきました。これまでの研究により、プラズマ照射は酸化ストレスを照射部位に負荷することにより多種類の活性化学種を生み出すことを明らかにしました。この低温プラズマを点滴に使用される乳酸リンゲル液に照射したのが、プラズマ活性化乳酸リンゲル液(PAL)です。悪性中皮腫の培養細胞に PAL を投与するとフェロトーシスとよばれる2価鉄に依存した特異的なネクローシス(壊死)を起こすことが初めて明らかになりました。また、今回の論文ではその分子機序も詳細に明らかにしました。網羅的なメタボローム解析により、予想外に一酸化窒素(NO)をつくる酵素が活性化することが判明しました。初期には、悪性中皮腫細胞はオートファジー機構を開始するにより PAL に適応しようとしますが、リソソームの NO が増えることを起点として細胞内の脂質過酸化が爆発的に増加してフェロトーシスが起こることが示されました。

今回の結果は、体腔で増殖する悪性中皮腫のようながんに対する補助的な治療として有用と考えられます。また、低温プラズマが生体の細胞において NO の発生を促すことを見いだしたのは初めてであり、新たな研究分野であるプラズマ生物学の大きな第一歩となりました。
本研究結果は科学誌「Redox Biology」(2021 年 4 月 23 日電子版) に掲載されました。

詳細はこちら:https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Red_Bio_210423.pdf